世界の保育(月刊コラム) 2025年10月号
アイルランドが保育者の最低賃金を約10%引き上げ/米ヘッドスタートに資金停止の影
2025年10月は、保育者の処遇と保育の財源をめぐる動きが目立ちました。アイルランドでは保育者の法定最低賃金が平均約10%上がり、米国では連邦政府の閉鎖により低所得家庭向けの幼児教育「ヘッドスタート」の資金が途絶える懸念が広がりました。オーストラリアは保育者登録制度や安全研修の義務化の日程を確認し、中国は次期5か年計画の方針で保育支援の拡充を掲げました。
この号は、2026年9月28日に、2025年10月の各国の発表・報道をふり返ってまとめたバックナンバーです。内容はその時点の情報です。
ヨーロッパ
アイルランド保育者の最低賃金を平均約10%引き上げ、予算でも保育を拡充
アイルランド政府は10月3日、保育・学童保育の職員に適用される新しい「雇用規制命令(Employment Regulation Order)」を発表し、10月13日から最低時給が引き上げられました。一般の保育者(Early Years Educator)は13.65ユーロから15.00ユーロへ、リーダー保育者は16.00ユーロ、施設長は19.00ユーロ、学位を持つ施設長は20.25ユーロとなり、引き上げ幅は職種全体で平均約10%です。
対象となる職員は約3万5,000人で、そのうち約2万3,000人が実際に賃上げの恩恵を受けると見込まれています。政府は、補助金「コア・ファンディング(Core Funding)」に4,500万ユーロを上乗せして賃上げ分を支える仕組みにしています。
10月7日に発表された2026年度予算では、幼児教育・保育に14.8億ユーロ(前年比1.25億ユーロ増)を配分しました。国の保育料補助制度(National Childcare Scheme)を利用する子どもは約3万5,000人増える見込みです。一方で、保育料そのものを直接引き下げる措置は盛り込まれず、料金の上限額を新たに設定する方針が示されました。
日本の保育士にとって職種ごとに最低時給が細かく決められ、学位や役職がそのまま賃金に反映される仕組みです。自分の資格や経験が給与にどう結びついているか、見直すきっかけになりそうです。
出典(3件)
- アイルランド企業・貿易・雇用省「New Employment Regulation Order for Early Years Educators and School-Age Practitioners – Ministers Dillon and Foley」(2025年10月3日)
- アイルランド子ども・障害・平等省「Unprecedented investment in disability and children as Ministers Foley and Naughton announce total package of over €7 billion in Budget 2026」(2025年10月7日)
- The Irish Times「Childcare: Will the budget make childcare more affordable?」(2025年10月7日)
北米
米国政府閉鎖で「ヘッドスタート」約6万人分の資金が途絶える恐れ
米国では10月1日に連邦政府の予算が成立せず、政府機関の一部閉鎖が始まりました。これにより、低所得家庭の0〜5歳児に教育・保育・健康支援を提供する連邦事業「ヘッドスタート(Head Start)」への影響が報じられました。
教育専門紙エデュケーション・ウィーク(Education Week)によると、11月1日に年間の連邦補助金を受け取る予定だった41州の134事業、子ども約6万人分が、閉鎖が続けば資金を受け取れなくなる状況でした。ヘッドスタートは全米で約83万3,000人の子どもを受け入れ、多くの事業は予算の約8割を連邦の資金に頼っています。
全米ヘッドスタート協会(National Head Start Association)は、子どもと家庭が影響を受けていることに強い懸念を示しました。10月1日に資金を受け取れなかった6事業は開所を続けていたものの、現場からは一時的なやりくりは長く続かないとの声が上がっていました。
日本の保育士にとって保育の財源が一つの仕組みに集中していると、その流れが止まったときに子どもと保育者が直接影響を受けます。自分の園の運営を支える財源の仕組みを知っておくことも、働く側の備えになります。
オセアニア
オーストラリア保育者の全国登録制度と安全研修の義務化、2026年2月開始を確認
オーストラリアの連邦・州の教育担当大臣会議が10月17日にクイーンズランド州で開かれ、10月20日に共同声明(コミュニケ)が公表されました。保育施設での子どもの安全を強化するため、8月にまとめた対策の進み具合が確認されました。
保育者を一元的に把握する「全国保育者登録(National Educator Register)」は2025年12月に試行し、2026年2月から利用を義務化する予定です。保育者・施設長などを対象とした子どもの安全に関する研修も2026年2月から必須となり、連邦政府は研修中の人件費を補う補助を用意します。
あわせて、保育の法律(国家法)を改正し、「子どもの安全・権利・最善の利益」を最も優先すべき考慮事項と明記する方針や、保育室への防犯カメラ設置の是非を全国で検討する作業の開始も示されました。連邦政府はこうした安全と質の取り組みに1億8,900万豪ドルを投じるとしています。
日本の保育士にとって安全研修を「全員必須」にし、その時間の人件費を国が補う点が特徴です。園内研修の時間を勤務時間の中でどう確保するかを、職場で話し合うヒントになります。
アジア
中国次期5か年計画の方針に「育児補助金」と保育サービス拡充を明記
中国共産党は10月23日、2026年からの「第15次5か年計画」の策定に向けた提言を採択し、10月28日に国営通信社・新華社を通じて全文が公表されました。今後5年間の国の方針を示すもので、子育て支援についても項目が設けられています。
提言では、育児補助金や個人所得税の控除によって出産・子育て・教育の費用負担を下げること、費用の一部を公費で補う保育サービスの試行拡大、公益性のある保育や、幼稚園と保育を一体的に行う取り組みへの支援が挙げられました。育児休業の実施を進めることや、より包摂的で質の高い就学前教育を目指すことも盛り込まれています。
日本の保育士にとって幼稚園と保育の「一体的な運営」を国の方針に掲げている点は、日本の認定こども園の議論とも重なります。制度の違いを越えて、子どもにとっての連続した育ちをどう支えるかを考える材料になります。
各国の政府・公的機関・国際機関・主要な報道の発表をもとに、保育士求人アースが日本語でまとめています。金額や制度はその時点のものです。